人類は再び月に降り立つ!国際宇宙シンポジウム2019

 国際宇宙シンポジウム2019に参加して

 今年は、アポロ計画で人類が初めて月に降り立ってから50年となる記念すべき年です。その2019年に新たな月探査に向けての具体的な動きが活発になってきました。


シンポジウム冒頭、国際宇宙探査に向けての世界の動向と日本の取り組みを解説する、若田光一JAXA理事(元宇宙飛行士)

 2019年3月12日に東京の虎ノ門ヒルズで開かれた国際宇宙探査シンポジウムに参加しました。このシンポジウムの主催は宇宙航空研究開発機構で、後援は内閣府宇宙開発戦略推進事務局、文部科学省や経済産業省でした。午前10時にはじまり午後5時まで、ヨーロッパ宇宙機関、NASA関係者や、宇宙飛行士、宇宙開発に関わる民間企業関係者、ベンチャー企業関係者が次々と登壇し、とても興味深い話を聞く事ができました。米国を中心としてこれから推進していく、深宇宙探査、資源開発の計画と展望が、ここまで具体的にロードマップが敷かれていることにとても驚きました。

国際宇宙探査シンポジウムのプログラム、朝から晩まで現在の宇宙探査やこれからの国際協力、今後の宇宙探査の方向性まで、様々な人が登壇し解説を行う。パネルディスカッションの内容も興味深いものでした。


 このシンポジウムに先立ち、文部科学大臣をホストに2018年3月3日に行われた、『第2回国際宇宙探査フォーラム』では40を超える国や機関の代表が、今後の宇宙探査の持続的な国際的な枠組みと推進が話し合われたのですが、この結果を受け、一般向けに発表する場として行われたのが、今回の『国際宇宙シンポジウム2019』でした。事前にトヨタ自動車がJAXAと月面探査用の車両の技術検討を行っていて当日シンポジウムで発表があるとのニュースが流れた事で、テレビや新聞社のほぼ全社が取材陣を送り込み、会場は一般参加者、関係者、報道のテレビカメラの砲列もあり、大変な熱気に包まれていました。


トヨタ自動車の発表が行われた午後には、この写真よりさらに人数が増え、立ち見が出るほどの状況になりました。

このシンポジウムで発表された、今後の「国際宇宙探査」の国外の最新状況は、あまりに具体的でまさに驚くべき内容でした。日本政府及び、JAXAは参加に向けての準備を進めていますが、具体的にまだ予算がついた訳ではないのが少し気になるところでもあります。
結論から言うと、具体的なロードマップはすでに敷かれ、米国やカナダなどの国は、この国際協力による国際宇宙探査の手始めとして行われる、月を周回する宇宙ステーション(ゲートウェイ)の建設に参加を決めて予算も執行されているのです。


月周回宇宙ステーション(GATEWAY/ゲートウェイ)の構成図 日本はNASAと協力して、ロジステッィク(貨物輸送/日本は次世代こうのとりHTV-Xを使う)と居住モジュールの建造をESA(ヨーロッパ宇宙機関)と協力して行う青図が示されている。現在地上400kmの地球周回軌道で運用されている国際宇宙ステーション(ISS)に比べると、現段階では『ゲートウェイ』は1/6程度の大きさの小規模な宇宙ステーションです。地上400kmにある国際宇宙ステーションに比べ、地球から38万キロも離れた場所で運用される「GATEWAY」の運用は、国際宇宙ステーションと比べても、物資の補給、人の行き来も含めとても困難になることでしょう。

 今まで宇宙開発の拠点であった国際宇宙ステーションの運営は、2024年までで、それ以降は民間に移行していく事になっています。そして今年から、NASA、カナダ宇宙庁、ヨーロッパ宇宙機関、ロシア宇宙庁と日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)は,月を周回する「ゲートウェイ」と呼ばれる有人の宇宙ステーションを、月の周回軌道上に建設に向けて動き出すというのです。一足先に予算がついているカナダと米国、これから本格的に活動を始めるヨーロッパや日本やロシア、それぞれが得意分野を持ち寄り、まずは月の探査と月面での資源開発競争を始めるというのです。この月探査、深宇宙探査の強力な推進力はもちろん人間の知的好奇心と言いたいところですが、それとは別に、地球に残った数少ない共産国である中国が、月探査に力を注ぎ始めたという事に他なりません。中国の月への進出に遅れを取るわけにはいかないという状況もあります。

数百年前に、ヨーロッパ各国が当時発明された外洋帆船を駆り、競うように世界中に進出を始めた『大航海時代』の宇宙版と私の目には映りました。

 今、宇宙開発は国家予算のみで行うものから、民間企業が人工衛星を打ち上げ、収益を獲る時代になりつつあります。人工衛星ばかりでなく、米国は遂に、宇宙への有人宇宙船の開発と運用を民間に移管しようとしています。イーロン・マスク率いるスペースX社とロッキードの二社とそれぞれ別の有人の宇宙船の開発を行なっています。

 地球周回軌道への打ち上げ費用も、大幅に下がりました。以前は地球周回軌道に衛星を打ち上げる費用は、重量1キログラムあたり、数百万円と言われていました。しかしながら、スペースXのファルコン9ロケットは、ロケットの再利用を遂に実現し、重量1キロ当たり15万円という低価格を実現しました。キューブサットと呼ばれる10センチの立方体で重さ1キロの小さな衛星がありますが、わずか15万円で地球の周回軌道に打ち上げて貰えるのです。こうした民間企業の活躍なくして、今回の月探査、そしてその後の火星探査の進展はないのです。


ゲートウェイに関する説明を行う、NASA主任科学者のジム・グリーンさん

 膨大な国家予算を使い、ほぼ国家予算だけで成し遂げられた50年前のアポロ計画とは、全く異なる様相です。月の資源は、少なく見積もっても300兆円という巨額な市場となると予想されており、遂にその利権を巡って、中国と米国の争いが始まったと言えそうです。前回の月探査は、資本主義国家の雄である米国と、社会主義国家であるソビエト連邦共和国のある意味メンツをかけた争いでした。そしてその時は、結局ソ連は月に人を送り込む事に失敗し、米国に軍配が上がったわけです。
経済的なメリットがなく、まさに国家の威信を賭けたアポロ計画は、その後、アポロ17号をもって計画の中断を余儀なくされましたが、今回の月探査は、今後の月での資源開発、小惑星での資源探査、火星探査など人類の太陽系大航海時代の幕開けではないかと個人的には感じています。

 今回、注目すべき発表がありました。それは、トヨタ自動車とJAXAによる月探査用探査ローバーの共同研究開発です。まだ始まって一年に満たないプロジェクトですが、国際宇宙シンポジウムに登壇したのは、章男社長より特命を受けた副社長でした。とても意欲的かつ、熱の籠ったスピーチでトヨタ自動車の本気が伝わってきました。この月面探査車は、アポロ計画の時代に作られたものとは比べものにならないほど高度な代物でした。与圧されたキャビンと4.5畳ほどの居住スペースを備えた、いわば月面キャンピングカーとも言うべき代物です。車重は6トンもあり、水素と酸素による燃料電池により電気を生み出し、モーターで走る燃料電池車です。


概念検討を行っている月面探査車の説明をする、トヨタ自動車株式会社 寺師茂樹副社長





画像クレジット:JAXA/TOYOTA
与圧されたキャビンと4.5畳ほどの居住スペースを備えた、いわば月面キャンピングカーとも言うべき代物、2台4人で常に行動し、一台が壊れても生還できるように安全策を取る。一台で緊急時には4人の生命を維持できる設計をするそうだ。



 画像クレジット:NASA/JAXA
探査車の打ち上げは二台同時に外国の大型ロケットにより行い。無人で月面に着陸し探査車を月面に下ろす計画です。打ち上げは2029年を予定。約10年後の近い将来です。


2台を同時に無人ロケットで打ち上げ、月面に届けます。その後、月周回軌道をまわる宇宙ステーションから月着陸船で4人の宇宙飛行士が送り込まれ、二台の探査車に分乗し、42日間(月の昼、月の夜、2回目の月の昼)にわたり、周囲1000キロ程を走り回り、月面の資源などの探査を行います。そして、探査を終えた宇宙飛行士は宇宙ステーションにもどります。月面に残された探査車は、次の探査ポイントまで無人で移動します。この繰り返しを、現在の構想では2029年から2034年の5年間に5回繰り返し行うようです。


登壇後、月探査と月面探査車に関するパネルディスカッションを行う、若田理事と寺師茂樹副社長



画像クレジット:JAXA
現在の青写真では、5箇所を数年間に渡り探査する予定。月の南極周辺での探査では、南極付近の
永久影にある水資源(氷)の探査も行うことでしょう。

 5回の探査においては、燃料である水素や酸素は全て地球から持っていくとのことでしたが、この月面探査車の目的は、日本の月探査機『かぐや』など、これまでの無人の月探査機で見つかった月面の極付近のクレーター内の永久影内で見つかっている水資源の場所の特定と将来的な水資源の採取を見据えた探査になるのでしょう。そして更にその先には、水を電気分解して、水素と酸素を得て、ロケット燃料や燃料電池の燃料にしたり、人間の宇宙での活動として必ず必要な水や酸素を得るための月面でのプラント建設を見据えているようです。わざわざ重力の大きい地球から、深宇宙探査のためのロケット燃料や宇宙船で使われる燃料電池で必要な水素や酸素を運ぶのは、大変お金がかかり効率が悪いので、将来的には、重力の弱い月で燃料となる水素や酸素を獲られれば、人類が宇宙に進出していくにあたり、長い目で見るとその経済的メリットは計りしれないことなのです。トヨタ自動車の寺島さんが、水素社会を月面で地上より早く実現させることが出来るかもしれないと、シンポジウムのスピーチではっきりと述べていたのが、とても印象的でした。


画像クレジット:JAXA/TOYOTA
月面で実現を目指す水素社会

 日本人から見ると、今回のトヨタ自動車の、月面探査車の発表はとても唐突で現実味のないものに見えるかもしれませんが、シンポジウムに参加して登壇する各界の人の話を聞くにつれ、民間企業の宇宙開発への参加がすすんでいる米国や欧州の状況や、国際的な月の探査の今後のロードマップを目の当たりにすると、日本での社会一般の月の探査と開発に対する認識は、少し遅れをとっていると思えます。一般人の月探査とその先の開発に対する理解がまだまだ進んでいない日本ですが、民間の会社の宇宙ビジネスへの関心もまだまだ薄いと思えます。日本にもロケットの打ち上げを目指すベンチャー企業はあるにはありますが、衛星を軌道に載せるどころか、宇宙の入り口に達したロケットは一つもありません。今日本が打ち上げているロケットは、官製、あるいは半官製ロケットばかりで、イーロン・マスクが打ち上げているファルコンロケットのような、民生ロケットは一つもないのが現状です。こんな中でのトヨタ自動車の月探査車(月探査与圧ローバー)への前向きな姿勢は、これまで宇宙開発へ関わりが無かった企業や一般人の宇宙開発への関心を高め、理解していくことを促進していくのではないかと、大いに期待してしまいます。


パネルディスカッション 宇宙探査と人類 山崎直子元宇宙飛行士と松本理化学研究所理事長 両名とも内閣府宇宙政策委員会委員

 NASAのロードマップによると、日本や欧州、ロシアの宇宙機関も協力しながら数年以内に、月周回軌道の宇宙ステーション(ゲートウェイ)の打ち上げと建設が始まります。50年前のアポロ計画により月探査が始まった時代、人々の宇宙への関心はそれまでに無く高まり、天体望遠鏡で夜空を見上げる人の数は爆発的に増えたのです。今後の宇宙探査は、ライブカメラでの映像配信をはじめ、VR技術を駆使した映像体験など、地球上に住む我々にとっても、これまで以上に臨場感に満ちたものになるに違いありません。これまで以上にたくさんの人が宇宙に関心を持つのではと期待しています。そして宇宙探査をきっかけにある一定の割合で天体望遠鏡で生の天体を見てみたいという人が出てくるでしょう。極めて近い将来に、人類の新たな歴史の1ページになる宇宙大航海時代の到来に向けて、天体望遠鏡メーカーとして貢献できることは何なのか、新たな入門用天体望遠鏡の製品開発を日々行う身として色々考えて行かなければと考えています。今回の国際宇宙シンポジウムに参加した天体望遠鏡メーカー関係者は私一人しかいませんでした。関心の低さを少し危惧しています。天体望遠鏡業界全体で考えていかなければならないことだと思います。




シンポジウム後のネットワーキングレセプションにも登壇者も含め多数の人が参加していました

シンポジウム会場内やその後のレセプションで、久しぶりに山崎直子さんとお話しできたのも、とても良かったです。先日、自動車雑誌「ナビカーズ」で、星空特集の時に、ぜひ寄稿してくださいとの僕の無理なお願いを快諾頂いたお礼を申し上げたかったのです。短い時間でしたが、弊社の子供用望遠鏡のお話しも山崎さんの方から尋ねられ、とても光栄に思いました。山崎さんありがとうございます!!

というわけで、前日の仕事がとても忙しく、睡眠不足で参加した国際宇宙探査シンポジウム2019、もしかして途中で寝てしまったらどうしようなどと心配でしたが、シンポジウム全体、とても面白く興味深い話ばかりで、最初から最後まで夢中になってメモを取りながら聞いてしまいました。

今回、参加しての感想や、僕の解釈も多数入っておりますので、報道記者さんのような正確さはないかもしれませんが、長文の駄文をお読みいただき誠に恐縮です。

スコープテック 
大沼 崇
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